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三樂文庫

庭仕事の真髄 老い・病・トラウマ・孤独を癒す庭

2022.04.25

著者スーは、英国の精神科医、心理療法士。

夫は有名なガーデン・デザイナーのトム・スチュアート。

ほか、多くの人たちの協力で本書が作り上げられたことが文末の「謝辞」に記されている。

その分、多角的な「植物、庭、ガーデニング」の根本を解析して、大切で重要な役割を

深く教えてくれる。

 

第九章は、「戦争とガーデニング」というドキッとする章だ。

ウクライナ侵攻が佳境を極める中、つい最近の新聞にロシア軍が完全掌握を宣言したマリウポリ抗戦で

アゾフ大隊の拠点「アゾフスタリ製鉄所」地下構造の絵図が載っていた。

地下5階まであるうち、地下2階はなんと「園芸場」となっていた。

製鉄場が稼働していた時の施設と思われるが、なぜ製鉄所? なぜ地下? いま、どうなっているのだろうか?

 

第十一章「庭の時間」では、石についてこのような記述がある。

…怪我から回復し始めて、治療を受けている病院のまわりの公園を散歩できるようになると、「手つかずの石」

が、何らかの方法で自分に「話しかけて」いるように思えたという。「地衣類やコケの毛布にくるまれて」

その石は自分に「静寂と調和」を事故以降初めて体験させてくれたとオットソンは書いている。

この石を繰り返し訪れることによって、彼は石との間にある種の関係を発展させていく。

それは、まわりの世界に対して次第に彼自身を再び開くことを許すという関係だった。オットソンの人生の

全ては事故の一瞬で変わっていた。このような背景で、石のもつ時間を超えた性質は、彼を安心させる効果があった。

「石は人間が初めてその前を通り過ぎるずっと以前からそこに存在していた。数えきれない世代が、それぞれの命と

運命を持って、通り過ぎていった」。

彼と石との触れ合いは深く心を安定させるものだった。

 

「石」の生命力、力強さが感じられた一節だった。

 

手に取りたくなる素敵な表紙絵とは裏腹に

「真髄」という重い書名。

美しい空間、場所を作る「庭仕事」の時間が、本来の自分自身を取り戻す大事な作業なのだと

あらためて教えさせられた。

 

ちなみにこの本、近所の「book &cafe ドレッドノート」で購入した。

庭仕事の真髄 老い・病・トラウマ・孤独を癒す庭
  • 三樂文庫No:073
  • 著者:スー・スチュアート・スミス 〈訳〉和田佐規子
  • 出版社:築地書館
  • 発行日:2021年11月10日

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文章・写真: 三樂編集部